
宮崎夏次系『カッパのカーティと祟りどもの愛』1
「世の中、明るいことや前向きな気持ちばかりだと疲れちゃうから、妖怪の陰の力を借りて、うわーっと発散させたい思いがありました」。唯一無二の世界観で感情を揺さぶってくれる宮崎夏次系さん。最新作は人間と非人間が、はみだし者という共通項で引き寄せられる冒険譚だ。
世知辛さと優しさが交差する世界で人間と妖怪が引き寄せる“ふしぎ”
「体調やメンタルが影響して、霊現象だと錯覚することってあると思うんです。それを“気のせい”で済ませず、妖怪にきちんと出てきてもらって人間とやり取りできたら、実生活も面白くなるんじゃないかなと」
口酒祝(くちさけ・いわい)は、笑った顔が化け物みたいに不気味だと避けられ、親の愛も友情も知らずに大人になった、孤独な女性。唯一の身内であるおじいの死と、入れ替わるようにして出会うのが、関西弁を話す幼いカッパだ。
「頭のお皿が割れているのは、彼もカッパの一族から見捨てられている、落ちこぼれだからなのだと思います。お腹が出ている造形もいいなと思って、だったらそのお腹には幸せが詰まっているんだろうなと、食いしん坊になりました。食べ物は記憶と結びつきやすいので、アメリカンドッグとかからあげ棒みたいに、みんなが味を思い出せるような身近なものをいっぱい出していきたいです」
身寄りのないふたりは、おじいが遺した軽トラでさまようものの、行く先々で不審者扱いされてしまう。珍しく彼らを受け入れる人は、やはり何かしらの負を抱えていて……。
「フウちゃんという女の子は祝ちゃんとは逆に家族がたくさんいて疲弊しています。祝ちゃんが黒なら、フウちゃんは白っぽい雰囲気で、もうひとりの自分的な立ち位置なのかなと。鬱屈とした牧師さんは、前からどこかで出したいと思っていた人。今回はそういうキャラクターが、集結するお話になりそうです」
常に虚ろな表情をしている祝が、笑顔になるシーンが見どころ。
「祝ちゃんは、どちらかというと化け物寄りの人。笑うと気持ち悪いと言われたコンプレックスが大きくなって、妖怪みたいな域に達したら、むしろ武器になるかもしれないという思いで描いています。目がキラキラしているのは、彼女が見ている光景をただ映し出しているだけの、反射板のようなイメージです。2巻では新たなキャラクターとして、高速で走る二宮金次郎が出てくると思うので楽しみにしていてください!」
祝は純粋に笑える日が来るのか。そして、はみだし者の百鬼夜行はどこへ向かうのか、追いかけていこう。
Profile
宮崎夏次系
みやざき・なつじけい マンガ家。2009年、第56回ちばてつや賞準入選。著書に『僕は問題ありません』『培養肉くん』『あなたはブンちゃんの恋』など。
Information

宮崎夏次系『カッパのカーティと祟りどもの愛』1
孤独な人間と妖怪が出会い、不思議な出来事や人々に次々と遭遇する、オカルティック・ヒューマンドラマ。マンガWebサイト「SHURO」で連載中。マガジンハウス 880円 Ⓒ宮崎夏次系
anan 2457号(2025年7月30日発売)より