温泉中也『現象X 超常現象捜査録』1

歩きタバコをしていた男性が突如燃え出し、焼死。だが遺体は、単純な着衣発火事故とは思えないほどに黒焦げだった。矛盾に納得できない市警の刑事で亜人のアナン・デューアは、マグリブ国家警察、略してNPMの捜査官カナイ・サレムに捜査協力することに。温泉中也さんの『現象X 超常現象捜査録』は、科学では説明できない事件を捜査する一話完結のクライムサスペンスだ。


超常現象捜査×異色のバディが活躍。海外ドラマ好きはきっと射貫かれる

「ネットのレビューではアメリカのドラマシリーズ『X-ファイル』のオマージュとして受け取られていたりするんですが、僕としてはむしろ『CSI:科学捜査班』や『ER緊急救命室』から、知識やテンポ感を借りている感じなんですよね」

温泉さんは根っからの洋ドラファンだそうで、特に1990年代から2000年代の米英のドラマに傾倒。

「とはいえ、洋ドラでよくある主役のプライベートな問題が表層化して仕事との板挟みになる展開は苦手なんです。というのも、自分が洋ドラを手に取る理由は大抵、専門性の高い職務内容やテーマへの興味から。なので、本作では主役が狂言回しであることを徹底しています」

主人公アナンは猫耳と尻尾をもつ亜人というアイコニックな存在。そのこだわりは?

「猫耳に関しては、デザインした当初は形骸化した可愛さの象徴であり単なる娯楽的装飾にすぎず、亜人設定を消すかどうか悩みました。しかし猫耳キャラを“いて当然”という形で登場させることで、超常現象の存在を肯定するギミックとして猫耳が機能した。そこからは愛着が生まれています。同時に、キャラを描くうえで努力をしているのは、読者の不快指数を下げることです」

例えば、主人公の二人が過度にセクシュアルに描かれることはない。

「1話では易怒性、2話では代理母出産といったように、本作は病気や社会問題を題材に選んでいます。そこには同じ問題で苦しんだ人々の歴史がある。私はこの歴史を商業活動によって消費することへの後ろめたさを感じていて、そこへの言い訳、あるいは敬意として、事件に正対する主人公からできる限り不必要な娯楽的装飾を取り除くように努力をしています。その最たる例が、セクシュアルに描かない、ということですね。とはいえ何が起こるかわからないのが連載というもの。今後作品、ひいては作者の思想が変化する可能性は常にある。その時は『ブレてるぞ』と叱ってください」

Profile

温泉中也

おんせん・なかや 1992年生まれ。アニメーターとして活躍し、本作でマンガ家としてデビュー。現在は、漫画誌『ハルタ』で隔月連載中。

Information

温泉中也『現象X 超常現象捜査録』1

不可解な連続焼死事件、住宅街で見つかった急激にミイラ化した3つの遺体、冬に咲いたひまわり畑と置き去り遺体。科学で説明できない事件に「国家警察情報部門特殊犯罪対策室」メンバーが挑む。KADOKAWA 836円 Ⓒ温泉中也/KADOKAWA

写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2459号(2025年8月20日発売)より
Check!

No.2459掲載

シェアする暮らし 2025

2025年08月20日発売

ビューティ、ファッションなど様々なジャンルごとに「これいいよ!」なコト・モノをリサーチ。美容は吉田朱里さん、ファッションは俳優の花瀬琴音さんとスタイリストの伊藤信子さん、フードではぼる塾の田辺智加さんに、みんなと情報をシェアしあい、自分自身をアップデートしていくことの醍醐味も伺いました。

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