山崎まどか
やまさき・まどか 帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で15歳で文筆家デビュー。映画や文学などさまざまなカルチャーについてのコラムを執筆する。翻訳したイヴ・バビッツ『ブラック・スワンズ』(左右社)が発売中。
ゆっきゅん
1995年生まれ、岡山県出身。2021年からセルフプロデュースで「DIVA Project」を開始。最新作に配信EP『OVER THE AURORA』が。作詞家としてアイドルへの詞提供も行う。
歌手よりも存在感がある圧倒的な司会者、黒柳徹子
まどかさんとは、実は一緒に映画館に行ったりする仲なんですよね。
『ベル・エポック』とか『スムース・トーク』とか。観賞後に感想をしゃべり合うのが楽しくて。
なので、今まであまりしてこなかった話もしたいです。まずは、やっぱりDIVAの話から。
うちはテレビをあまり見せてもらえない家庭だったんだけど、当時って『ザ・ベストテン』を見ることが大事だった時代で。その番組を見ないことがいかに生活上の社交において支障をきたすかを半年かけて説明・交渉して見せてもらえるようになったの。
テレビの解禁、とかじゃなくて番組ごとの交渉なんだ(笑)。
そこで誰がDIVAか考えた時、好きな歌手はもちろんいたんだけど、私にとってのDIVAは黒柳徹子さんなんじゃないかと。
頭も良くてエスプリも効いて、面白くて、おしゃべりで、ファッションも飛び抜けて個性的な服装を楽しんでて。おまけに文章もうまい才人。変な人であることは間違いないのに、それが全面肯定されている、すごく大きな存在だったなと思うんだよね。
『ザ・ベストテン』の昔の映像とかって、テレビで流れても歌唱シーンばかりだから、司会者のトークに注目できてなかったです。
アイドルの好きになり方も同級生たちとは違っていて。みんなアイドルに憧れるんだけど、私は作詞・作曲・編曲などのクレジットを見ちゃう「楽曲厨」だった。
早熟ですね! 最初から作り手とか裏方の人が見えていたとは。私も歌詞が好きだから、結構作詞家は気にしてました。iPodを使っていた時には、歌詞もフリーソフトで本体に取り込んで、聴きながら読めるようにしてた。
作詞家では松本隆さんが人気の時代だったんだけど、私は銀色夏生さんが好きで。なんだか理想化された女の子ではなく、本物の女の子の気持ちを書いているように感じたの。ずるいところとか、切ないところとか。
斉藤由貴さんの「AXIA ~かなしいことり~」なんか衝撃的。
夏生さん、小泉今日子さんの曲とかも書かれていましたよね。
自身の楽曲を、公募で一般の女の子に歌わせたアルバムもあるんだけど、すごくいいの。ごめんオタクの話で。
’90年代のインターネットは面白い人たちで溢れていた!
私、まどかさんのサイト「Romantic au go! go!」についていろいろ伺いたかったんです!
私がインターネットを始めたのは1997年頃からで、1998年には「Romantic au go! go!」を作っていました。当時はHTMLエディタでテキストと画像を取り込んだりして。書きたいことはあるけど、書く場所がないような時代だったの。そこでは映画パンフレットの面白さをよく紹介してた。あとはロマンティック・コメディ映画や、脇役の面白い俳優さんを紹介したり。
その頃ってテンプレートのあるブログとか、SNSとかないから、個人サイト時代ですよね。
そう、まだやる人は限られていたけど、自分でデザインを組んでかわいいサイトを作ってる女の子とかがたくさんいたよ。ちょっとネットの敷居が高かった分、面白い人が集まってた。
すごく書きたいことがある人しか、わざわざ個人サイトを作らないですもんね。
雑誌では取り上げないほど小さなことを、独自の切り口で紹介したりして、テキストに読み応えがあったし、その子たちの世界観も好きだった。今は個人の世界観は分かりにくくなった気がする。
インスタは個性を出しやすいかもしれないけど、サイトのフォーマット自体は同じですもんね。今だと自分のZINEを作る感覚なのかもしれないですね。
私が中学生の頃はブログが流行ってて、友達や先輩の日常的なブログにどこかせつなさを感じながら読むのが好きでした。
何気ない高校生活の話とか読みたい! 文化祭で起きたこととか教えてほしい(笑)。
一般の人の語りもいいですよね。まどかさんは個人サイトが今の仕事につながったんですか?
ライター業は当時もうやっていたんだけど、サイトで書いたテキストを小冊子にまとめて本屋さんに置いてもらっていて。『Olive』の編集長がそれを読んでくれたことで今につながっているから、本当にインターネットには感謝。
人が読みたい文章をちゃんと書かれていたからですよね。その後、まどかさんがたくさん文章を書いてきてくださったおかげで、私は2015年にまどかさんの文章と出合えました。調べていた資料とか、いい映画のパンフレットには必ずまどかさんの名前があって、重要人物だ! って感じでした!
下の世代に見つかるのは、やってきた甲斐がある瞬間だね。
型破りではみ出した女たちはなぜ私たちを惹きつけるのか
まどかさんが翻訳した、イヴ・バビッツ著の『ブラック・スワンズ』、とても面白かったです!
カジュアルなおしゃべりが続くと思ったら急にパンチラインが出てきたりするでしょう。それが私も訳していて本当に楽しかった。イヴ・バビッツは、1960~1980年代のロサンゼルスのカルチャーシーンになくてはならない人でね。あらゆるパーティにいて、あらゆる人と寝る、みたいな。
奔放さで名が知られているって…すごくいい話ですよね。
それでいて文才もあった。当時は文学界からも無視されていたんだけど、10年ぐらい前から急に人気が出てきて。グレイシー・エイブラムスとか、海外アーティストにもファンが多いの。
正直で、口が悪くて、軽快で、明瞭で、それでいて詩的で。私はこの本を何度も読んだ方がいい気がしてます。
軽薄の中に本当はきれいなものが隠れているってことをすごく教えてくれる人。そこが大好き。
サブリナ・カーペンターを聴きながら読んだらぴったりでした。
今アイコンになるような女性って、英雄的で立派な人だと思う。もちろんそういう人も素敵だけど、そうじゃない、無茶なことを言っているような人が私は好きだなって。はたから見ると迷惑な人に映るかもしれないけど、チャーミングな人はたくさんいるんだよね。はみ出しながら自分を貫いている人たちの存在は偉大だなって思う。
自分に奔放さがなかったとしても、そういう人を見ていると元気が出るし、気が楽になりますよね。自分も迷惑をかけてもいいし、我慢しなくていいんだって。
だからイヴ・バビッツに惹かれちゃうんですね。彼女の本質を理解している人が翻訳に関わっていることが本当に最高です。
まどかさんは“DIVA紹介DIVA”なんです! 映画も、世間から評価されないけど自分だけはいいと思っている作品ってありますよね。
星取表とか点数って大嫌い。そんな評価基準より、自分の中で一個飛び抜けてすごいと感じたり、感動したところがあれば、それだけでいい作品なんだよね。
あらゆる面白いところに女の子を送り込みたい
私、映画パンフレットの仕事って好きなんだよね。いわゆる批評じゃない、観た人に向けて記念に残るようなものでしょう? 観た人の感情をもう一度掻き立てるような、アンコールみたいな文章を書きたいなといつも思ってる。
子どもの頃、映画を観に行ったらいつも母がパンフレットを買ってくれて。観賞後、一番最初に読むものだから、大切でした。
面白い映画について書くなら、映画と同じくらい面白い文章じゃないとダメっていう気持ちがすごくある。それが敬意を払うってことだなと思っていて。
私も最近、パンフレットに寄稿させてもらうことがあるので、心がけるようにしたいです。まどかさんみたいに、今の自分が感動しているものとかについて、ちゃんと書いたり発信したりして、少しでも残せるようにしたい。
ありがたいことですね。でも映画関係が一番多いです。私はミニシアターに若者を動員することが一つの仕事だと思っているので、そこは頑張りたいですね。
私もずっと、あらゆるところに女の子を送り込みたいという気持ちはある。女の子は「自分とは関係ない」と思わされていることが多いから。なんとか面白いものにたどり着いてほしくて。
まどかさんの仕事って、本当にずっとそれをやってくれてますよね。個人の視点で面白いと思っているものをたくさん紹介してくれて。私もその視点は大事にしたいんだけど、私の好きなものってあまりマニアックではないから。結局メジャーなあゆとかだし。
でも、あゆのこの部分の良さは自分にしかわからない、とかあるでしょ? 他人には譲れないところがすごく大事だと思う。
ありますね。だからそこは自分が語らなきゃいけない。たとえばパンフレットとかだと、同じ作品で複数の書き手がいる時とかは、差別化じゃないけど、自分だから書けることを探します。
そうだよね。方向性とか手がかりみたいなものを見つけて。
たとえば旧作を改めて紹介する時に、当時観た気持ちのまま伝えないようにすることかな。その作品に新しく触れる人にとっては「今」のことだから。新作と同じようにプレゼンしないとダメだと思ってる。
✍️ ゆっきゅんのまとめ
まどかさんが切り開いた道を未来へと繋いでいく
尊敬している人に「山崎まどかさんみたいになってほしいです」と言われたことがあって、私は当時21歳で、文章の仕事もまだ全くしていなかったし、驚いたし、畏れ多すぎて、無理だよ? なぜ? と思った。まどかさんがアメリカや海外のユースカルチャーやガーリーカルチャーを日本の女の子に向けて言葉で届けてくれたように、同時代で体感している日本のカルチャーを日本の若い人々に批評的な視座を持って届ける人になってほしい、そんなゆっきゅんが見てみたい、的なことを言ってくれたのだった。
無理だよ? なぜ? と思っていたけど、あのとき言われたことやまどかさんの著作を読んで受けた影響は、私がその後大学院に行って少女マンガ映画で論文を書いてみたり、好きなカルチャーについて文章を書くようになった動機に繋がっている。いま本当に好きだと思っているものが評価されてなくて、流行もしてなくて、でも自分が価値を見出しているのなら、言葉で人に伝えたいという気持ち。自分が語らなければ誰が語るのだ! という文化について、積極的に書き残していくこと。私はまだまだ、まだまだだけれど、まどかさんがずっと続けてきてくれた「DIVA紹介DIVA」としての営みを、専門分野は異なるけれど、だからこそ、未来に繋いでいきたいと不遜ながら思っている。
まどかさんが翻訳した『ブラック・スワンズ』は今年読んだ本のなかで一番面白かった(対談の初出は2025年)。イヴ・バビッツという1960~1980年代のロサンゼルスのパーティガールが書いた短編集で、物語はもちろんだがその文体、語り口に魅了されてしまった。「最近どう?」と聞くとなぜかこの前会ったばかりなのにさらなるプライベート大事件(恋愛)を起こしているような、素行が悪くて愛されていて嫌われていて素直で軽薄で正直で、それでいて必ず真剣、そんな女友達から話を聞いているような感じがして、痺れた。こんな文章書きてえよと思った。ていうか私は昔から、可愛くてモテる羨望の眼差しを向けられる女の子の語る切なさに弱いのだった。『ご近所物語』ならバディ子、『君に届け』ならくるみちゃんのことが好きだった。でも、イヴ・バビッツはまどかさんが翻訳してくれたから知ることができたのである。ありがとうございます。
今年は行けてないですが、また一緒に映画を観に行って、そのあとカフェで止まらない感想を語り合いたいです。よくないとこもある愛しい作品について、また話したいんです!