『ハリー・ポッターと呪いの子』ラストイヤー。稲垣吾郎と読み解く、魔法の世界の魅力

稲垣吾郎さん

吾郎さんと一緒に、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の劇場「TBS赤坂ACTシアター」へ。長い間熱狂を巻き起こし続けるマジカルな現場とは。


What’s?

『ハリー・ポッターと呪いの子』

「ハリー・ポッター」シリーズ初となる舞台作品。ハリーたちが魔法界を救ってから19年後の世界が描かれる。日本では2022年の開幕からロングランを続けてきたが、今年12月27日をもって閉幕することが決定。映画版でハリー・ポッターの声優を務めた小野賢章さんが新キャストに加わるほか、歴代のハリーを演じてきた9人の俳優たちが再登板し、ラストイヤーを盛り上げる。

©TBS/ホリプロ

4年半に及ぶ長期ロングランを経て、ついに今年12月に千秋楽を迎える舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』日本公演。ラストイヤーにふさわしく、歴代ハリー9人の再出演が決定。その中には、もちろん稲垣吾郎さんの名前も。

「まさか再びここに戻ってくるなんて思ってもいなかったので、嬉しかったですね。僕は平岡(祐太)くんらと共に4期キャストと呼ばれているんですが、4期で僕だけ先に千秋楽を迎えてしまい、寂しく思っていました。この作品や世界観に関われた喜びって、たぶん出演した全員が感じることで、それくらい作品として偉大なんですよね。前回の出演後から別の舞台を挟んだことで、改めて作品や役について冷静に考えることができたので、今回はさらに進化したハリー・ポッターを演じられたら」

劇場での撮影の間も、何度となく感慨を口にしていた稲垣さん。それだけ強い思い入れのある作品ではあるが、じつは参加する前はそこまで熱心なハリー・ポッターファンではなかったそう。

「演じることによって、この作品に導かれて見えた世界というのがあるんです。役に誘われて魔法の世界を体験する感覚というか。夢の世界ですから、そこに入れる喜びはありますよね。もしかしたら観に来たお客様も、同じような感覚があるのかもしれません。喜んでくださっている表情を見て、こちらも嬉しいし、こんなにすごい作品の一員として駆け抜けられたんだという喜びもありました」

出演したのは、昨年7月から10月までの約4か月、59公演。それでも「不思議と一度も飽きることがなかった」と言う。

「普段1か月とか2か月舞台をやっていると、公演期間中のどこかで新鮮な気持ちを保つための努力が必要になってくるんですよ。でもこの役に関しては、一回もそれがなかった。もちろん毎回、キャストが代わったりお客さんの力で横軸に物語が紡がれてゆく。鮮度を取り戻すということもあるけれど、何より作品の力が大きいと思います。うまく言葉で説明できないけれど、知れば知るほど噛めば噛むほど…で、僕よりずっと長く何年も出ている方も同じことを言うんだから不思議ですよね。それだけロングランに耐えうる力のある作品なんだと思います」

稲垣さんといえば、これまでも数々の舞台に出演してきている。しかし、ロングラン公演の複数キャストのひとりとして出演することには少なからず驚きがあった。

「このぐらい経験を重ねてくると、自分が今までやったことのない新しいものをやってみたくなるんです。ミュージカルのように歌や音楽の力で芝居を引っ張っていくのではなく、ストーリーと装置・演出で魅せていく大型の公演で、しかも上演のために劇場まで改装しちゃっているわけで、そんな作品に携われることってそうそうない機会だと思ったんです」

同じ役に取り組むキャストが複数いる経験も初めてのこと。「でもそれがすごく心強くて嬉しかったし、楽しかった」と語る。

「若い時の自分だったら絶対に嫌だったと思うんです。意識してしまって、やりづらいなって思ってたはずで。でも今回は逆に、台本も演出も一緒でも俳優によって演じ方が違うのが当たり前で、それが面白いと思いました。それに、普段お芝居をやっていると、役と自分にしかわからない孤独な瞬間があるけれど、今回は平岡くんがいて、同時期に大貫(勇輔)くんや上野(聖太)さんもいて。同じ気持ちを共有できる人がいることの心強さは大きかったです。稽古を一緒にやっていた平岡くんなんてすごく真面目で、ハリー・ポッターの大ファンだから、僕にいろんなことを教えてくれるんです。授業のノートを取って貸してくれる友達みたいな感じ(笑)。僕が予習復習しないタイプだから、彼にすごく甘えてました。他にも、出演時期は違うけれど、吉沢(悠)さんに段取りの難しいところを教えてもらったり、後々、僕のラジオにゲストで来てくださった藤木(直人)さんとハリー・ポッターの話で盛り上がったり。この歳になって、同じ学校で学んだ仲間に出会えた感じがして、すごくいい経験ができたなって」

この舞台で描かれているのは、映画で描かれているハリー・ポッターのその後の物語。魔法界を救った英雄として今や尊敬を受ける存在となったハリーと仲間たち。しかし、次男のアルバスは英雄の息子であることを重荷に感じ、ハリーもまたそんなアルバスとの関係性に悩む。親子のドラマを縦軸ストが代わったりお客さんの力で軸に物語が紡がれてゆく。

「少年の頃に英雄になった人って、大人になったら達観して迷いのない人間になるのかと思っていたんです。でも、父親としてまだまだ未熟なハリーが描かれていて、最初は意外に思いました。改めて考えると、僕自身、歳を重ねてきてもまだまだ未完なわけで、ハリーと一緒に学ばせてもらうこともたくさんあったな、と。僕には子供はいないけれど、子供を想う父親の気持ちはもちろん、家族だったり、友情だったり、いろんな愛の形が描かれているんです。しかも、人それぞれの形があっていいんだよって、押し付けがましくないのがいいんだよね。みんながそれぞれ自分を犠牲にしてでも守りたいものがあって、誰かのために一生懸命で、ただの魔法の物語でも、悪を倒す物語でもないところに、すごく共感するんです」

息子との接し方に悩むハリー。稲垣さんという人がそれを演じることで、その不器用さがチャーミングにも見え、好評を博した。

「僕に限らず、どうしても役に俳優本人のイメージが重なって見えてしまう部分はあると思います。ハリーのダメっぷりをどう表現するかは俳優によって違うと思いますが、僕はなるべく面倒くさいハリーでいようと思っていました(笑)。ちょっと鈍感で頑固で、それでいて弱さも持っている。子供にとっては嫌な父親じゃないかな(笑)。俳優によっては、もっと距離が近くて優しいハリーもいたり。それぞれのハリー像が少しずつ違うからこそ、お客さんも何度でも観たくなるんでしょうね」

今回の特集テーマは熱狂。稲垣さん自身、熱狂を生み出し、その真っ只中に身を置いてきた人だ。

「台風の目と一緒で、本人たちは意外と気づいていなかったりするんですよ。今になって、あれが熱狂だったのかもしれない、と気づくことが多いです。この間もSPYAIRの方たちが僕のラジオにゲストで来てくれたんだけど、ボーカルの方が、子供の頃に地元の福岡であったSMAPのライブに行ったという話をしてくれたんです。当時、福岡の街がSMAP一色ですごかったと話していて。今になって、それだけ大きなことだったんだと知る感じです」

Goro’s recommended scene

ホグワーツに辿り着いたふたりの息子の想いに感動

ハリーの息子のアルバスと、ドラコの息子のスコーピウスが初めて眼下にホグワーツ城を望むシーンが、そこで流れる美しい音楽も含めてすごく好きなんです。僕は出ていませんが、ふたり…とくにスコーピウスの憧れの地を前にした高揚感が舞台袖にまで伝わってきて感動します。

緊張感とユーモアが同居した魔法での変身シーン

魔法省に潜入したアルバスとスコーピウスが、ハリーとロンに変身するシーンは、緊張感とユーモアが同居していて愉快ですよね。スコーピウスが変身したハリーは、当然僕が演じているんだけど、その日のスコーピウス役の子っぽく演じているのでお芝居的にも面白いです。

そこだけでひとつの演劇になるような美しいラストシーン

この舞台は段取りが重要なため、全編にわたって立ち位置ひとつも数cm単位で決められているのですが、ラストだけは唯一決まった演出がなく、動きは俳優に任されています。毎回、その場で生まれた感情を大切にしていて、組む相手により動きが違うのもとても面白いです。

Profile

稲垣吾郎

いながき・ごろう 1973年12月8日生まれ、東京都出身。俳優として、ドラマや映画、舞台で活躍しており、近作に映画『あんのこと』、ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』、舞台『No.9―不滅の旋律―』『プレゼント・ラフター』などがある。

information

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』

舞台はハリー、ロン、ハーマイオニーが魔法界を救ってから19年後。ハリーは魔法省で働く官僚に。彼の次男のアルバスは、ホグワーツ魔法魔術学校に向かう道中、ハリーのライバルだったドラコの息子スコーピウスと出会う。つくり込まれた世界観と重厚なストーリーに、何度も劇場に足を運ぶ人も多い。上演中~12月27日(日) TBS赤坂ACTシアター 作/J.K.ローリング 脚本/ジャック・ソーン 演出/ジョン・ティファニー https://www.harrypotter-stage.jp

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写真・酒井貴生(aosora) スタイリスト・黒澤彰乃 ヘア&メイク・金田順子(June) 取材、文・望月リサ

anan 2494号(2026年5月1日発売)より
Check!

No.2494掲載

熱狂の現場 2026

2026年05月01日発売

いま人々の心を熱くするエンタメの現場に迫る「熱狂の現場 2026」特集。熱狂を生み出す現場からの熱い思いを伺いました。

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