大人だからこそ浸りたくなる、ひと夏の冒険×ジュブナイルホラー。小説『僕の妹をさがさないでください』

小説『僕の妹をさがさないでください』の作者、春海水亭さんにインタビュー。


意識したのは、大人の視点から見た“子どものリアリティ”

小学5年生の須藤翔は、通学路で【捜さないでください】と書かれた奇妙なポスターを見つける。尋ね人は翔の妹・陽菜。しかし、翔には妹はいないはずなのに…?

そんな冒頭からぐんぐんホラーみを増していくのが、春海水亭さんの『僕の妹をさがさないでください』だ。翔がオカルト好きなクラスメイトの丸喜空と、隣の家が幽霊屋敷と噂されるようになった真相を探りに行く「すみおわった家」、小学校の裏手の山の中腹にあるいわく付きの池に行ってしまった岸陸斗が幻臭に悩まされる「置いて池」など、翔と友達のぞわっとする体験をベースに進む6つの連作集になっている。

「わりと自分の生活の延長線上の何かがヒントになってストーリーを組み立てていくことが多いです。この作品でも、自分が小学生だったころの思い出や感情を拾い上げて、各話に当てはめていった感じですね」

主人公が子どもだからと高をくくることなかれ。起きる出来事の残酷さやグロテスクさは容赦ない。

その一方で、本書には、友達との絆、困難を乗り越えた成長、子どもゆえの閉塞感や無力感、初恋の高揚と絶望など、ジュブナイル要素が存分にちりばめられている。

「ピンチの打開に、大人ならいろいろな手段を選べるけれど、子どもだから選択肢が限られる。そういう拙さを加えたりしています。意識したのは、大人の視点から見た“子どものリアリティ”でした。大人になって思い出すからこそ懐かしく、切迫感があるように書きたかった」

各編に通底しているのは「亡くなってしまった大切な人と、もう一度会いたい、話したい」という一途な願いだ。誰もが持つ感情だろうが、それがある一線を越えたら何が起きるかが本書の恐ろしさのキモ。

「自分の利益の最大化のためなら手段を選ばない人間っていますよね。僕自身、そういうタイプがいちばん怖いというか、面白がっているところがありますね。執着しているのに、無理だとなったら簡単に捨ててしまうような冷淡さもゾッとします」

ちなみに、翔のピンチには決まって現れて、助け船を出してくれる謎の女子高生の存在にも注目。須藤陽菜と名乗った彼女の秘密が明かされるとき、クライマックスへとなだれ込む。翔と陽菜の掛け合い漫才的な会話も魅力的だ。

Profile

春海水亭

はるみ・すいてい 作家。’21年に小説投稿サイト「カクヨム」に投稿した作品を収録した『致死率十割怪談』が話題に。近著『愛より出でて怪より呪わし』(角川文庫)は霊能者と助手のバディホラー。

information

『僕の妹をさがさないでください』

春海さんのホラー観を決定づけた作品が高校時代に読んだ小林泰三著『玩具修理者』。はやみねかおる作品にも影響を受けているそうだ。KADOKAWA 1760円

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写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2500号(2026年6月17日発売)より
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No.2500掲載

王道エンタメの矜持

2026年06月17日発売

55年間ときめきを追いかけ続けてきたananがこのメモリアルな号で特集するのは“王道エンタメ”。市川團十郎さん、反町隆史さん、辻村深月さんなど、それぞれの世界で王道を歩んで来られた方々のインタビューを通して、各ジャンルにとっての王道とは何かを探ります。

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