
漫画『ひとごとごと』の作者、オカヤイヅミさんにインタビュー。
それぞれ見えていなかったものが見えるようになればいいなと
オンラインでいつでもどこでも誰かとつながれる一方で、顔の見える相手とのやり取りが、ますます希薄になっていると感じる昨今。オカヤイヅミさんの『ひとごとごと』は人とつながることや、それによって居場所ができあがっていくことの意味を改めて考えさせてくれる。
「最近、終(つい)の住処(すみか)について考えることが多くなってきました。ひとり暮らしは増えているけど、歳をとったら家を借りるのが難しいとも聞きますし。体の老いは平等にやってきて、中年になると本当に中年らしい話をするんだっていうのも新鮮で(笑)。中年の輪郭がはっきりしてきて、描けるかなと思った物語です」
震災を経て、首都が合理的に設計し直された近未来。子育て世帯は緑豊かな文教地区に、労働者は自由で便利な商業地区に、引退したら温暖な郊外の保養地で老後を過ごすという、住み分けができあがっている。44歳の先山あさみは、子どもが欲しいという気持ちがないまま、中古マンションのリノベーションデザイナーとして働き、商業地区で20年暮らしている。住まいに関する顧客の要望に日々向き合いながら、人生は選択の連続であることに、今さらながら戸惑いも感じている。
「自分としては積極的に決めてきたつもりはなく、なるようになってきたことでも、ある程度大人になると“選択した結果”としてみなされますよね。と同時に、何となく保留にしてきたけれども、決めなければいけないことが多いのだと、ようやく気づいた昨今なのだと思います」

Ⓒオカヤイヅミ/KADOKAWA
そんなあさみがある日、街ですれ違ってハッとするのが、中学生の集団。社会の分断によって、普段見かけることすら少なくなってしまった若さのかたまりに面食らいつつも、「何かしてあげたい」という漠然とした思いが湧き上がってくる。
「結婚も出産もしないと、社会的ステイタスは大きく変わらないまま、ただ年上になっていく感覚があって。若い世代に対して自分の位置って何なのだろうと思ったり、もっと社会にコミットするべきなのではという思いを描いてみました」
やがて物語は、それぞれ別の街で暮らすふたりの視点が重なっていく。ひとりは、あさみとすれ違った集団の中にいた、文教地区に住む14歳の少女。もうひとりは保養地の熱海にある施設に入居しながら、かつての家を懐かしむ82歳の老女。
「あさみの“来た道”と“行く道”ではあるのですが、自分と似たような属性の人しか街にいなくなると、いろんな選択肢があることがわからなくなってしまう気がして。違う街で暮らす3人がつながることで、それぞれ見えていなかったものが見えるようになればいいなと思います」
Profile
オカヤイヅミ
マンガ家、イラストレーター。2011年『いろちがい』でデビュー。『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない』で第26回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。
information
『ひとごとごと』1巻
子どもを持たない選択に後悔はないが、いつの間にか引かれた線に戸惑っている、先山あさみ44歳。分断が進む社会で、他者とどうつながっていけるのか。KADOKAWA 990円
anan 2501号(2026年6月24日発売)より






























