
ケニー・ウォンさん
2018年に香港公開され、口コミなどからスマッシュヒットを飛ばしながら、日本では未公開だった『逆流の男たち』が、ついに日本公開。『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』で虎兄貴と十二少を演じたケニー・ウォンとトニー・ウーの初共演作としても知られる本作。ファン待望の日本公開を祝し、ケニー・ウォンがananのwebに初登場! 約40年に及ぶ、波乱万丈な役者人生を振り返ってもらいました。
── 1980年代後半に、香港のTV局・無綫電視(TVB)の俳優養成所(藝員訓練班)に入られた動機を教えてください。
子供の頃は、自分が俳優になりたいなんて思ったことは一度もありませんでした。といいますか、自分が俳優になれるとも思っていませんでした。その後、モデルの仕事をやっていたとき、「これは長く続けられる仕事じゃない」と思い、もっと稼ぐことができるエンタメ業界を目指そうと思いました。ただ、当時の香港エンタメ業界に入る手段といえば、レコード会社などが主催する歌唱コンテストに出場するか、TV局の養成所に行くしかありませんでした。そんなとき、ある人から「今度、TVBの養成所の入学テストがあるらしい」と勧められました。それがきっかけです。
── その後、養成所卒業後、TVB専属俳優になられますが、当時の思い出を教えてください。
養成所では、演技も歌もアクションも、とにかくいろいろなことを学びました。まるで少林寺みたいなところでした。それで卒業後に専属になることで、いろいろな番組に出演でき、もっと優秀ならドラマで主演を務めることもできます。でも、当時の私はあまり実力を発揮することができず、ドラマでキャスティングさせるのは端役ばかり。そして、5年後の93年には会社から「もうやめなさい」と言われ、契約を切られてしまいました。ただ、専属時代に、映画業界の人に出会えた縁もあり、エンタメ業界に残ることができました。
── TVB専属時代の1992年には、ゴールデンハーベスト社が制作した成人映画(Ⅲ級片)『真説エロティック・ゴースト・ストーリー劇場版』で映画初出演にして、主演を務めています。
ある日、ゴールデンハーベスト社の名プロデューサー(日本では美食家としても知られた)、チャイ・ランさんから出演依頼を受けました。伝奇ファンタジーといえるジャンルで、なにしろ出演料がTVBの給料、一年分だったのです。TVBも出演を承諾してくれたうえ、宣伝活動することも可能だったので、迷いなく出演を決めました。あの時代の香港映画界は、このようなジャンルの作品が量産されていましたし、私自身そこまでエロティックな内容の映画だとは思っていませんでしたから(笑)。
── 1993年に契約が切れたTVBとは、4年後の1997年に再契約されます。
一度TVBを辞めた後は、端役ながら、いろいろな映画に出演することできたのですが、不運なことに映画業界全体が衰退してしまいました。(ジェット・リー主演)『ハイリスク』(95年)の助監督など、裏方の仕事もしていたのですが、その仕事すらなくなりました。年齢も三十歳も超えていたこともあり、ほかの業種の面接に行っても、ほとんど採用されません。そんなとき、ふたたび縁があって、1997年7月1日、香港返還の日に再びTVBに戻ることができました。とはいえ、ふたたび端役からのスタートでした。
── これまで約90本の映画に出演されているケニーさんですが、そのフィルモグラフィで際立つのが20年に58歳の若さで亡くなられたベニー・チャン監督の作品に多く出演されていることです。
ベニー・チャン監督は、映画界における私の父親のような存在でした。彼が私を最初に起用してくれたのは、アンディ・ラウが主演した『英雄列伝』(92年)の警官役。その後、私がTVBに復帰した後、また少しずつ現場に呼んでくれるようになり、映画現場の素晴らしさを教えてくれました。『ヒロイック・デュオ 英雄捜査線』(03年)、『NEW POLICE STORY 香港国際警察』(04年)、『ディバージェンス 運命の交差点』(05年)、『インビジブル・ターゲット』(07年)……。警官役もしくは、悪役が多かったですが、私に多くのチャンスをくれたことを感謝しています。彼はとても上品で、才能があって、今でも尊敬している監督です。中国大陸の撮影が多くなってしまったときは、TVB専属の私に声をかけることが難しかったようですが、遺作になった『レイジング・ファイア』(21年)でも声をかけてくれて、本当に感謝しています。
── 2017年にふたたびTVBを離れ、映画界中心で活躍されたケニーさんの次の転機といえるのが、「おっさんずラブ」の香港版リメイクであるドラマ「大叔的愛」(21年)。オリジナルで吉田鋼太郎さんの演じたキャラ・KKを演じたこと、人気アイドルユニット「MIRROR」のメンバーである、イーダン・ルイさんとアンソン・ローさんを相手にコメディを演じることのプレッシャーは?
TVB時代から知り合いだった監督から「見てください」と言われたオリジナルの吉田鋼太郎さんの演技がとても上手で、かなりのプレッシャーでした。彼のように、私はその場に立っているだけでは面白く見えませんから。また、KKが思いを寄せる役を演じたイーダンと年齢差がありすぎることにも悩みました。「これは社会的問題になるのでは?」「別の俳優をキャスティングした方がいいのでは?」と、その演出家に相談もしました。でも、「あなたなら、きっとできるはず!」と念を押されたんです。KKの演技に関しては、自分で考えたプランをいくつか現場で監督に見せました。それを見た監督は「これだ!これが欲しいんだ!!」と言ってくれ、その方向性でKKを演じ切ることができました。私のコミカルな演技を視聴者が受け入れてくれるか心配だったこともあり、とにかく大きな試練ばかりの作品でしたが、結果的に上手くいって良かったです。今となっては、監督の頑固さにも感謝しています(笑)。

『逆流の男たち』でも、トニー・ウーさんと共演。
── そして、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(24年)では、黒社会のボスの一人、虎兄貴を演じられます。師弟関係となる十二少役のトニー・ウーさんとは、『逆流の男たち』(18年)以来、数回共演されています。
虎兄貴は白黒ハッキリした性格なので、最初に脚本を読んだときから、とても好きになりました。出番は少ないですが、衣装さんやスタイリストさんの力もあって、彼の個性が出せたと思います。『逆流の男たち』以来、何度かトニーと共演していたことは、もちろん大きな助けになりました。お互いどういう人間かを分かっていたので、すぐにいい関係性になり、虎兄貴としての気持ちや十二少との絆をすんなり表現することができました。そういえば、あるときソイ・チェン監督が「二人の良い関係性を簡単に表現できるアクションはないか?」って聞いてきたんです。黒社会の親分と子分でなく、まるで兄弟が遊んで見えるように、いろいろ考え、秋兄貴の食事会シーンのリハーサルで、遅れてやってきた十二少に、ちょっと下品な感じで、ちょっかいを出す動作をやってみました。監督もそれを気に入ってくれて、あのシーンになりました。
── ちなみに、ベテランのケニーさんから見て、トニーさんは俳優としてどのように成長していると思いますか?
彼は演じる役柄について、どんどん深く考えて、突き詰めているように思います。デビュー作の『最初の半歩』(16年)では、ほぼ主演という役回りで、現場でいろいろ学んでいて、『逆流の男たち』のときには、すでに貫禄すら感じました。そこから、多くの現場を踏んできて、『トワイライト・ウォリアーズ』を経た今は、より成熟している時期なのかもしれないですね。そのぶん、やらなければいけないこともいろいろ増えていると思います。

『逆流の男たち』では、ドラゴンボートレースチームの一員・黎<ライ>を演じる。
── そんなトニーさんとの初共演作『逆流の男たち』が、8年越しで日本公開されます。本作はケニーさんの俳優人生において、どのような作品といえますか?
正直な話、この映画の出演オファーをもらったときは、新しい仕事程度の気持ちでした。でも、撮影中に、約20年間所属していたTVBから離れることを決断し、クランクアップの日に独立しました。50代半ばで、独立して俳優を続けるのは容易ではないと分かっていましたし、リストラ寸前のこの映画の登場人物のように「これから、どうなってしまうのか?」という将来の不安もありました。でも、チーム一丸となってドラゴンボートに挑んだ、この映画が公開され、私の演技が「香港電影金像奨」で助演男優賞候補になるほど評価されたことが、大きな励みになり、いろいろな役柄のオファーも来るようになりました。つまり、私のキャリアの中で、大きな転機になった重要な作品だと言えますし、この作品と出会ったことで、現在の私がいると思います。
── 前作のファンの期待も高まる『九龍城寨之終章(原題)』ですが、いま言える範囲で、虎兄貴の見どころを教えてください。
あまり詳しくは言えませんが、虎兄貴と十二少との関係性は、前作からさらに深まっていきます。そこについては、完成した映画でしっかり見ることができるはずです。それで、「虎兄貴の地位的なものはどうなるのだろう?」っていう感じですね。あと、髪型はちょっと変わりますが、(義眼の)右目は変わらないですよ(笑)。ちょっとだけネタバレすると、さらに劇中に登場するキャラクターが増えて、いい感じに入り乱れているので、そこにも期待してもらいたいです。
── 日本のファンの反応や反響については、どのように捉えていますか?
私が虎兄貴を演じたことによる反響の大きさに、今でも驚いています。日本だけでなく、中国大陸にもたくさんのファンがいるのですが、みなさんとても若いんです。まさか自分にこんな若いファンがいるなんて思いもよらなかったですし、舞台公演をやったときにも、わざわざ香港まで観に来てくれました。応援してくださる、みなさんには感謝しかありません。
── ケニーさんの今後の俳優としての希望や展望を教えてください。
この業界に入って、もう40年近くになるので、いろいろな役を経験してきました。バラエティ番組も出ましたし、旅番組にも出ました。また、舞台劇もやっています。そういう意味では、俳優が携わることができるジャンルに、ほとんど関わったことがあると思っていますが、まだまだ演じたことのない役はあるので、これからも挑戦してみたいです。また、裏方の経験を生かして、いつか監督業もやってみたいです。あとは昔からたくさんの日本のドラマや映画を見てきたので、チャンスがあれば、日本でも仕事をしてみたいです。例えば、「大叔的愛」が結んだ縁で、吉田鋼太郎さんと共演できたら光栄ですね。

『逆流の男たち』で演じる黎<ライ>は、ドラゴンボートレースを通じて新たな自分を発見していく。
Profile

ケニー・ウォン
1963年4月30日生まれ、香港出身。1988年に俳優デビューし、多数のテレビドラマや映画に出演。『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』の虎兄貴役や、『大叔的愛』(日本ドラマ『おっさんずラブ』のリメイク)への出演で、日本でも多くのファンを獲得している。
『逆流の男たち』
Information

これといった将来の目標もなく、日々の仕事をこなすだけの通信会社に勤める3人のエンジニア、“龍<ロン>”(フランシス・ン)、“淑儀<ソクイー>”(プーン・チャンリョン)、“威廉<ウィリアム>”(トニー・ウー)。ある日、社内で起こったリストラ騒動に巻き込まれてしまった彼らは、ひょんなことから会社がスポンサーを務める「香港ドラゴンボートレース」に出場することになる。しかも、そのメンバーの中には、同僚をクビにしたことで彼らと対立していた上司・“黎<ライ>”(ケニー・ウォン)も含まれていた。しかもこの4人は、プライベートでもさまざまな問題に直面していた——。
11月6日(金)より全国順次ロードショー































