近年、SNSやZINE、文学フリマなどを通じて、日記というジャンルがじわじわと広がりを見せています。なぜ今、人は日記を書き、そして、他人の日記を読みたくなるのだろう。東京・下北沢にある日記の専門店「日記屋 月日」ディレクターであり、世にも珍しい日記専門誌『季刊日記』編集長を務める久木玲奈さんに話を聞きました。

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    Profile

    久木玲奈

    ひさき・れいな 1991年生まれ。日本大学芸術学部卒。事務員や書店員を経て、東京・下北沢の「日記屋 月日」で取締役/ディレクターをつとめる。「蟹の親子」名義で文筆活動も。著書に『増補版 にき 日記ブームとは何なのか』(自主制作)、『日記をつけて何になる?』(柏書房)などがある。

    『季刊日記 創刊号』(日記屋 月日刊)¥2,178

    『季刊日記 創刊号』(日記屋 月日刊)¥2,178

    『季刊日記 創刊号』(日記屋 月日刊)¥2,178

    『季刊日記 創刊号』(日記屋 月日刊)¥2,178

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    読む、書く。その循環がゆるやかに広がっている

    ── 今、なぜ日記がブームになっているのでしょう。久木さんはこの状況をどう捉えていますか?

    私は、ブームという言葉からイメージするような、一時的な流行とは少し違う感覚を持っています。日記を読む、書くというカルチャーは、突然ゼロから生まれたものではなく、古来からある日記文化が土台にあります。そして、今「ブーム」と呼ばれている現象は、もともと日記が好きだった人たちがいて、その存在が少しずつ見えるようになってきたという感覚に近いというか。

    ただ、これまでと違うのは、有名作家や著名人の日記だけではなく、特別な技術や知名度がなくても、それが日記であれば、誰のものでも、ある程度関心が向けられるようになってきたところ。日記を書き、それをネットで公開したり、本にしたりして誰かと共有する手段を得やすくなったことで、多様な日記が読めるようになりました。

    そして誰かの「日記本」を読んだことで、自分でも書いてみようと思う人が現れ、そのうち自分も本にしてみたいと思うようになる。さらに、それが別の誰かの読みたい、書きたいを触発する。そういう循環が今、とても自然に起きていると感じます。

    ── その背景には何があるのでしょうか。

    SNSやnoteのようなメディアプラットフォーム、ノートアプリなどが普及したことは大きいと思います。そもそも、以前は限られた人しかブログやSNSアカウントを持っていなかったと思うのですが、今では誰でも、自分なりの方法で発信しやすくなりました。あとは、社会的な出来事も大きかったと思っています。

    ── 社会的な出来事というと?

    コロナ禍の影響ですね。“家にいる時間が増えたから日記を書く人が増えた”という単純な話ではなく、あの時期は、すごく内向きな作業が求められた時間だったと思います。日々が大きく変わっていくなかで、「この時間をどうにか記録しておきたい」と思った人は少なくなかったと思います。実際、“コロナ禍日記”と呼ばれるアンソロジーもたくさん生まれました。

    今日を生きた、その記録を自分の言葉で綴る

    ── 久木さんが考える、他人の日記を読むことの醍醐味とは?

    曖昧な時間が許されているところでしょうか。たとえばエッセイは、何をどんな順で伝えるか緻密に練られていますし、「オチ」や「余韻」を求められる印象があります。けれど日記は、書き手の考えが曖昧で、思い出した順に書き出していいし、昨日と今日で矛盾していてもいいし、突然大昔のことを書いてもOK。読み手には不思議に思うことでも、ふとしたところに“この人、こんなこと考えていたんだ”という予想外の発見が潜んでいます。

    子育てや介護の大変さを吐露している日もあれば、今日食べたごはんがおいしかったという話もある。“これは、こういうジャンルの本です”となかなか言い切れない。たとえ曖昧で矛盾を抱えたままでも、その人にしかない味(あじ)が出るのが、日記の面白さだと思います。

    ── 日記を読む習慣がない人への、読み方のコツや楽しみ方はありますか。

    最初は自分と共通点がある人の日記から読むのをおすすめします。近い境遇の他者の日常に、共感しながら読むことで、日記を読む楽しさを感じられるかなと。そこから徐々に自分とは遠い境遇の人の日記を読んでいくと、不思議と暮らしぶりが似ているとか、価値観が重なるなどといった、発見や学びもあります。あとは、好きな文章だな、とか、装丁がかわいいな、とか“なんかこの感じ好きかも”みたいな直感で手に取ってみるのもいいと思います。

    2026年4月に発売した『季刊日記 2号』(日記屋 月日刊)¥2,178

    日記好きのもうひとつの場所としての雑誌

    ── 昨年日記の雑誌『季刊日記』を創刊されました。きっかけは何でしたか?

    「日記屋 月日」を続けていると、日々、日記に興味がある方との出会いがあります。日記の好きなところや関心を持つポイントも人それぞれで、本当に興味深いんです。それで、開業5周年を迎えたタイミングで、日記に関心がある人たちが集まれる拠点を、店とは別の形でつくろうと思い、『季刊日記』を創刊することにしました。「読んだら日記がつけたくなった」という嬉しいご感想もいただいています。日記の魅力や多様な日記観を、今後も発信できたらと思っています。

    ── 雑誌を創刊してみて、新たに気づいた日記の面白さはありますか。

    ある一週間で25人の書き手が日記を書くという企画があるのですが、別々の人の日記なのに、同じキーワードが出てくることがありました。同じ時代を生きている感が見えて、面白いなと思いました。

    これから先、雑誌をつくり続ける中で“なんでもない日記”も載せていきたいと思っています。というのも、普段から文章を書き慣れている方に執筆をお願いすると、やっぱり“読ませる文章”を書いてくださる。でも、誰にも読まれないかもしれないくらい荒削りな文章にも日記の魅力があると思うんです。書き方は自由で、数日前と書いていることと真逆のことを書いてもいい。一貫性を求められる社会の中で、“昨日はこう思ったけど、今日はこう思った”が、許せる唯一の場所なのかも、とも思います。

    誰かのためではなく、その日を生きた自分のために書かれる言葉。だからこそ、整えられていない感情や、言葉になる前の揺らぎが残る。そういうものの価値を、雑誌でも伝えていけたらと思っています。

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    写真・日記屋 月日 取材、文・浦本真梨子 構成・奥村桜子

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